【浄土真宗と現代】(1)
今から37年前、1984年(昭和59年)の春、私が京都・龍谷大学の大学院で真宗学を学んでいた時、恩師で元学長の信楽峻麿先生のお導きで、大谷光真御門主様とともにアメリカ東部ボストンにある、ハーバード大学神学部の世界宗教研究所センターで開催された、「浄土真宗とキリスト教のシンポジウム」に参加したことが、その後の、私の人生を決定づけたと言っても過言ではありません。
今でも鮮明に覚えていますが、どうしてもこのシンポジウムに参加したくて父に、「貯金もあまりないので、お金を貸してください」と、相談しました。そうしたら、父はすぐに、「御門主様と一緒に行けるのか」と、驚いた顔で話し、「俺が一緒に行きたいくらいだ」と、話してくれて、参加費用の半分だけ援助してもらいました。
この時、父が背中を押してくれたことが、34年の時空を超えて、平成30年11月3日の「光明寺本堂等新築落成慶讃法要」の、『前門様ご巡教』のご縁につながったと、しみじみと回想しています。
当時、参加されたメンバーはその後の宗門を担う、学識経験豊かで、お坊さんとしての実践力をともない、文武両道(教学と法務)に秀でた、そうそうたる方々がいらっしゃいました。今、その先頭に立っておられるのが東京仏教学院元講師、横浜市中区桜木町、寳光寺の藤田恭爾ご住職です。
この経験を通して、一番勉強になったのが、洋の東西を問わず宗教は、「その教えに真摯に生きている人」に出遇うことが、最も大切なことだと気づかされたことです。どんなに立派な教えでも、その教えに生きている人に出遇わないことには結局のところ、その教えは理解できません。
当時、世界の最先端をゆく文明社会でありながら、「病めるアメリカ」とも言われていた時代状況の中で、従来のキリスト教理解に満足することができず、より深い宗教的真実を探求してのシンポジウムだったのかもしれませんし、また、他の宗教の真理を学ぶことによって、それぞれが自分自身の信仰を、今一度、確かめようとしていたのかも知れません。
ただ、西洋という異文化圏、キリスト教社会の中で、浄土真宗を懸命に伝えておられたアメリカ在住の大学の先生方、ハーバード大学の永富正俊先生、スミスカレッジの海野大徹先生(北米開教教団開教使兼務)と話したときに、「南無阿弥陀仏をTHANK YOU BUDDHA」と、シンプルに伝えていると話され、「お念仏の味わいは、学問ではなく、全人格的なものです」と、話されたことが非常に印象深く、いまでも心に深く刻まれています。(続)
合掌