2020.1.1版
【「ワンチーム」は社会の縮図】
西日本新聞記者 傍示 文昭
あちこちの街に桜のジャージーがあふれかえった。南アフリカの優勝で幕を閉じたラグビーワールドカップ(W杯)日本大会。予想以上の盛り上がりに火を付けたのは、紛れもなく史上初の決勝トーナメント進出を果たした日本代表の活躍だった。
ただ、にわかラグビーファンの急増を含め、ここまで盛り上がった要因はそれだけではないだろう。八強入りという戦績以上に、多くの遺産を残してくれた歴史的大会として記憶に刻まれるだろうと思っている。
大会前に熱っぽく語っていたリーチ・マイケル主将の言葉が記憶に残っている。「外国人も日本人も一緒になって結果を出す。ダイバーシティー(多様性)がすごいチームと思ってほしい。これからの日本(社会)はどんどんグローバルになる。いろいろ感じてほしい」
日本代表三十一人のうち十五人が海外六ヶ国の出身・国籍。韓国出身の具智元選手はスクラムで雄たけびを上げてチームを鼓舞し、南アフリカ出身のピーター・ラブスカフニ選手はローマ字で覚えた「君が代」を歌い、母国に立ち向かった。
かたや、海外出身選手の多さを批判する声は広がらなかった。野球やサッカーなど人気競技に比べても厳しい待遇の中、あらゆる犠牲のもとで過酷な練習に耐え、チームのために大柄な選手へのタックルを繰り返す「ワンチーム」。
そうした献身的な姿が中継や報道を通して確実に伝わったからだろう。一丸となり困難を乗り切る「ワンチーム」の戦いぶりは、人口減で外国人労働者が増えるであろうこれからの日本社会の縮図であり、理想像ではないだろうか。
昨今、自分と違う価値観を認めない不寛容さが確実に広がっている。在日韓国人をターゲットにしたヘイトスピーチはその典型だろう。書店には韓国や中国を中傷し、ナショナリズムをあおるような「嫌韓本」「嫌中本」が並ぶ。排他的空気が漂い始めた社会で、日本チームの活躍は絆やつながりといった日本人が大切にしてきた価値観を見つめ直し、国籍を超えて分かり合える可能性を感じ取ったからこそ共感が広がったのだと思う。
試合が終われば敵味方は関係ないという「ノーサイド」の精神も浸透した。試合後に花道をつくってたたえ合い、日本文化を尊重した外国チームの選手が一列になって観客席にお辞儀する姿も印象的だった。「ワンチーム」と「ノーサイド」の精神の広がりが「違い」を認め合う社会の醸成につながることを期待したい。