浄土真宗本願寺派 紫雲山 光明寺

ジャーナリストの眼力

日本から新聞が消える日

 朝、目覚めてから最初にやることは決まっている。玄関を出てエレベーターでマンションのロビーに降りる。郵便受けから新聞を取り出して部屋に戻り、目を通すところから一日が始まる。三〇年近く、この日常は変わらない。

 変わったのは、同じように新聞を取りにロビーに降りる人が極端に減ったことだ。以前は多くの住人とロビーや廊下ですれ違ったが、今出会う方は数人しかいない。それほど新聞の定期購読者は減った。バスや電車での風景も同じだ。今、新聞を広げて読む人は皆無に近い。

 私の肌感覚の実感をデータが証明する。日本新聞協会によると、発行部数が最も多かった一九九七年は五三七七万部。かたや昨年は二六六二万部。一昨年からの一年間で二二六万部減り、ピーク時の半分になった。このままのペースで部数減が進めば、一二年後の二〇三七年、発行部数は限りなくゼロに近づく計算になる。「新聞は紙で読みたい」という読者がいる限り、新聞発行は続くとの指摘もあるが、日本独自の事情で新聞紙が消える日が現実となる可能性がある。

 ご存じのように日本の新聞販売は特殊で、世界にあまり例を見ない宅配制度によって成り立っている。コンビニや売店での店頭販売はごく一部に過ぎない。長期契約を結ぶ購読者の自宅まで届ける制度によって、安定した発行部数と販売収入は維持されてきたのだ。

 その宅配制度を末端で支えてきた販売店の廃業、閉鎖が相次いでいる。二〇〇一年は全国に二万一六一五店舗あったが、二〇二三年は四割減の一万三三七三店舗。新聞を自宅まで届ける宅配制度が足元から崩れ始めているのだ。

 新聞の一カ月の定期購読費は、西日本新聞の場合、朝刊・夕刊セットで四八〇〇円。新聞を印刷して販売店まで運ぶ新聞社が半分を受け取り、自宅まで届ける販売店が残り半分を受け取る。購読者の減少によって販売収入が減った影響もあるが、新聞に折り込む広告チラシの激減が大きい。

折り込みチラシの手数料は全額、販売店の収入。購読者が減った上、その大半が高齢者のため現役世代への影響力が一気に下がったことで、新聞にチラシを入れるスポンサーも激減。さらには未明から早朝に朝刊を届ける配達員が、七〇歳以上の高齢者ばかりという販売店も少なくない。配達員の確保は年々難しくなってきており、新聞を宅配できない地域も生まれている。

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 二〇三七年、日本から新聞が消える。そんな仮説が現実味を帯びる中、七月から古巣である西日本新聞社に復帰。「客員編集委員」という肩書でまた新聞記者として働くことになった。六六歳。残りの人生がどのくらいあるかは不明だが、二〇三七年に向かってあがき続けたいと思っている。(西日本新聞客員編集委員)