株式会社テレビ西日本(TNC)
特別参与 傍示文昭
二〇二四年プロ野球日本シリーズは、セ・リーグ三位の横浜DeNAベイスターズがパ・リーグ覇者、福岡ソフトバンクホークスを四勝二敗で下し、二六年ぶり三度目の日本一に輝いた。横浜ファンには忘れられない日本シリーズになったが、報道に携わる者にとっても決して忘れてはならない禍根を残した日本シリーズと位置付けられる。日本野球機構(NPB)がフジテレビに下した処分は、明らかに表現の自由を著しく制限した恣意的な制裁として記録しておかなければならない。
私が所属するテレビ西日本のキー局であるフジテレビは、日本シリーズと日程が重なった米大リーグのワールドシリーズ、ドジャースーヤンキース戦を日本時間午前に生中継し、夜のゴールデンタイムでもダイジェスト番組を放送した。これに対し、NPBはフジに支給した日本シリーズの取材パスを回収。事実上の出入り禁止処分を行って現場から記者を締め出したのだ。
NPBは処分直後、正式なコメントを一切出さず、井原敦次事務局長は二週間後ようやく没収理由を発表した。「球団、中継局、スポンサーなどが一体となって日本プロ野球のコンテンツ価値の向上、野球ファンの裾野拡大に努めてきた中で、フジのワールドシリーズ中継方針は、日本シリーズの価値やプロ野球を取り巻く関係者と団体が築き上げてきた信頼関係を毀損する行為」。つまり契約上のルール違反に対するペナルティではなく、感情的な制裁なのだ。
そもそも報道機関が事実を調べ、伝えるための取材の場を奪うことは簡単に許されるべきではない。現場で事前に取り決めたルールに違反したのであれば、その不始末を理由に記者が一定期間出入り禁止になっても仕方がないだろう。しかし、フジが局としてどの時間帯にワールドシリーズを放送するかは、取材活動とは一切関係がない。「どの番組をいつ放送するか」という放送番組編成は、テレビ局の表現の自由の根幹で、放送法も真っ先にこれを保障している。「気に入らない番組を放送したから取材禁止」というNPBの対応は、放送法の考え方を真っ向から否定するもので決して許されるものではない。
一度これを受け入れると、極論すれば日本シリーズの裏番組では米大リーグのみならず、サッカー日本代表の試合などの人気スポーツ、さらには災害や事件事故などの特別報道番組まで「日本シリーズから視聴率を奪う番組は放送するな」ということになる。そして何より問題なのが、NPBが処分理由を正式に説明しないままパス没収という重大な制裁を下した点だ。もしフジの番組編成が取材を禁ずるほど重大な背信行為だと考えるなら、NPBは正々堂々と処分を公表し、その大義名分を説明すべきだった。それをせずに水面下で取材パスを取り上げることは公明正大とはいえない。
報道に携わる者はもっと怒らなければならない。