浄土真宗本願寺派 紫雲山 光明寺

ジャーナリストの眼力

台湾有事はあるのか

 二〇〇五年から三年間、西日本新聞の北京特派員として中国を取材した。以来、中国研究の王道を歩む友人たちとの交流を軸に、中国ウォッチャーの一人として細々とだが情報収集を続けている。そんな経歴もあってか、ロシアによるウクライナ侵攻の後、友人知人からの質問が一気に増えた。「中国による台湾侵攻はあるのか」。台湾有事への懸念が確実に高まっていることを肌で実感している。

 六月二三日、日米首脳会談後の記者会見でバイデン米大統領の発言が驚きをもって受け止められたのは、そんな時代背景があるからだ。台湾有事の際、米国は軍事介入するのか。そう問われた大統領は、即座に「イエス」と回答した。歴代の大統領はこれまで、イエスともノーとも明言しない、いわば「あいまい戦略」を取ってきており、武力関与を認めたのは初めてだった。当然、中国は猛反発し、ホワイトハウス高官は「台湾政策に変更はない」と火消しに躍起になった。「イエス」発言が計画的な失言だったのかどうか、その真意は不明だが、中台の緊張関係がさらに一つ上のステージに上がったのは間違いないだろう。

 中国は「台湾は中国の一部」であるとする「一つの中国」原則の貫徹を国家的使命としている。そして平和的統一を目指すとしながらも軍事的統一の可能性を否定していない。習近平国家主席の「中国の夢」は、建国百周年に当たる二〇四九年までに米国と肩を並べる大国に発展させることであり、台湾を含む領土の統一も不可欠としている。 つまり台湾統一は「するか、しないか」ではなく、二〇四九年までに「いつ統一するか」という問題としているわけだ。

 ならば中国が台湾統一のために軍事侵攻する可能性はあるのか。現時点で、その可能性は極めて低い。中国の最大の夢は米国と肩を並べる経済大国になることであり、国民も豊かさを求めている。武力侵攻により世界の市場を失い、民主主義諸国と切り離されれば経済のさらなる発展がないのは明白であり、ウクライナ侵攻後もロシア支援の方針を打ち出していないのはそのためだ。

 中国は今、台湾統一に向けて何をしているのか。最も力を入れているのは台湾を孤立化させる戦略である。台湾は現在、世界の一四か国と国交を樹立している。大半は小さな国だが、台湾を国家として認め、中国が世界にアピールしている「一つの中国」を認めていない国々である。逆に台湾と国交を結ぶ国がゼロになれば、台湾は国際社会で国家とは見なされなくなる。そこに中国の狙いがある。この六年間で台湾と断交し、中国と国交を結んだ国は八か国に上っており、台湾を国際社会から排除し、経済的に絞り上げる戦略は着実に成果を上げている。

 中国は今後も武力侵攻を脅しに使いながら、真綿で首を絞めるように外交によって台湾を追い込んでいくだろう。そこに米国がどう絡むのか。バイデン大統領の「イエス」発言も明らかに外交上の脅しであり、「攻撃」をちらつかせながらの「口撃」がより激化するのは必至だ。(了)